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 【2006年5月】
 ●グッドナイト&グッドラック
 ●ニュー・ワールド
 ●戦場のアリア
 ●RENT
 ●ぼくを葬(おく)る
 ●アンダーワールド エヴォリューション
 ●ダ・ヴィンチ・コード

●グッドナイト&グッドラック ★★★
 (2005・米・93分)

 監督・脚本・出演:ジョージ・クルーニー
 出演:デヴィッド・ストラザーン
    ロバート・ダウニー・Jr.
 


 G・クルーニーの監督2作目で、題材の良さからだろう、なんとアカデミー作品賞・監督賞ノミネートだが、(当然ながら)受賞はしなかった。
 CBSの報道番組の顔として一時代を築いたエド・マローと、赤狩りで悪名高いジョセフ・マッカーシー上院議員との対決を、局内の動きを仔細に追いながら再現して行く。
 題名の『グッドナイト&グッドラック』は、マローがキャスターを務めた番組で、締めくくりに常用した決まり文句。当邦でも筑紫哲也が「今日は、こんなところです」って毎晩やってるけど、あれはクロンカイトの真似だぞ(笑)。
 まず、エド・マローを演じたストラザーンは、ヴェネチアで主演男優賞受賞も納得の深みある演技だし、モノクロの撮影も落ち着いたトーンで実にいいし、マッカーシーを役者が演ずるのでなく実際のニューズ・フィルムでそのまま出して、つまり本物と俳優とを対決させるというコンセプトも大歓迎だけど、これだけ傑作になる要素がずらりと揃っていながら、展開が平板で盛り上がらないこと、もう口惜しいほどである。
 シナリオが、冒頭、すべて終わって挨拶するところから始めるなんて、もう、なにを考えてんだ(!)って、腹立たしいくらい。
 監督としての前作『コンフェッション』(2002)でも、同様の隔靴掻痒を味わったから、当時の映画メモに「もう監督はしないでね」って書いたもんだった(笑)。
 G・クルは出演と製作だけにして、別に有能な専業監督を起用して欲しかったと、つくづくそう思う。

●ニュー・ワールド ★★★半
 (2005・米・2時間16分)

 監督・脚本:テレンス・マリック
 出演:コリン・ファレル
    クオリアンカ・キルヒャー
 


 テレンス・マリック、待望の新作。
 32年間で4本目だから、平均すれば8年に1本の巨匠であり、10年に1本の名匠=ビクトル・エリセと並ぶ寡作家だ。前作『シン・レッド・ライン』が'98年だったから、観るのも8年ぶりになるが、期待に違わず、これは今年の洋画の1、2を競う傑作!
 題材がポカホンタスと聞いた時は、ディズニーがつい先年にアニメ化してるし、何故にいま…?、と思ったが、マリックはこの企画を25年も前から暖めていた由。
 タイトルのあと、ワグナーの楽劇《ラインの黄金》の導入部が地底から湧き上がるように響いてくると、もうそれだけでぞくぞくさせられる。澄んだ川の中を先住民の乙女が魚のように泳いでいるイメージは、たしかにラインの乙女たちが水中を遊び戯れて指輪をみつける《ラインの黄金》の冒頭そのままだ。
 極力説明を排した語り口は、昨今の刺激あるドラマを見馴れた目には、メリハリに乏しい淡々とした展開に見えそうだが、しかし、とにかくすべてのシーンがリアルそのものであり、これは単に映画を【観る】次元を超えて、ほとんど【体験】の領域ではなかろうかと言いたくなるほどだ。
 ラヴ・シーンにモーツァルトのイ長調ピアノ協奏曲Nr.23(K.488)のアダージョが繰り返し流れるのは、ちょっと「あま〜い!」と叫びたくなる(笑)が、この曲の静謐な抒情感をよく生かしているので、許〜す。

●ニュー・ワールド ★★★半
 (2005・米・2時間16分)

 監督・脚本:テレンス・マリック
 出演:コリン・ファレル
   クオリアンカ・キルヒャー


 テレンス・マリック、待望の新作。
 32年間で4本目だから、平均すれば8年に1本の巨匠であり、10年に1本の名匠=ビクトル・エリセと並ぶ寡作家だ。前作『シン・レッド・ライン』が'98年だったから、観るのも8年ぶりになるが、期待に違わず、これは今年の洋画の1、2を競う傑作!
 題材がポカホンタスと聞いた時は、ディズニーがつい先年にアニメ化してるし、何故にいま…?、と思ったが、マリックはこの企画を25年も前から暖めていた由。
 タイトルのあと、ワグナーの楽劇《ラインの黄金》の導入部が地底から湧き上がるように響いてくると、もうそれだけでぞくぞくさせられる。澄んだ川の中を先住民の乙女が魚のように泳いでいるイメージは、たしかにラインの乙女たちが水中を遊び戯れて指輪をみつける《ラインの黄金》の冒頭そのままだ。
 極力説明を排した語り口は、昨今の刺激あるドラマを見馴れた目には、メリハリに乏しい淡々とした展開に見えそうだが、しかし、とにかくすべてのシーンがリアルそのものであり、これは単に映画を【観る】次元を超えて、ほとんど【体験】の領域ではなかろうかと言いたくなるほどだ。
 ラヴ・シーンにモーツァルトのイ長調ピアノ協奏曲Nr.23(K.488)のアダージョが繰り返し流れるのは、ちょっと「あま〜い!」と叫びたくなる(笑)が、この曲の静謐な抒情感をよく生かしているので、許〜す。

●戦場のアリア ★★半
 (2005・仏・独・英・1時間57分)

 監督:クリスチャン・カリオン
 出演:ダイアン・クリューガー
    ベンノ・フュルマン
    ギヨーム・カネ
    ダニエル・ブリュール


 基になった実話そのものは大変に感動的な美談で、それに多少のフィクションを加えてはいるが、許容範囲に収まっており、万人向けの無難な好編と言える。
 第一次大戦の最前線、ドイツ軍の塹壕でクリスマス・イヴを祝ってオペラ歌手が得意の喉を披露すると、それが敵陣の塹壕にも届き、感動したスコットランド兵がバグパイプで答え、またそれにドイツ兵たちが歌声で応ずる…。
 そういうやりとりを繰り返して、遂にはお互い塹壕から這い出し、酒を持ち寄って酌み交わし、家族の写真を見せ合い、一緒に深夜ミサまで執り行って、まさに束の間の非戦闘地域が現出する。
 映画では更に、偶然そこを訪れていたソプラノ歌手も加わって見事なアリアを歌い上げる、というフィクションをまじえて、華やかさを増している。
 第一次大戦ものと言えば、名作『西部戦線異状なし』やクーブリックの『突撃』、ピーター・ウィアーの『誓い』などの傑作が思い浮かび、先年の『ロング・エンゲージメント』(2004/公開は2005)も記憶に新しいが、残念ながらあれほどのユニークさは無く、映画演出としては、はっきり言って凡作だ。
 いかにも文部科学省特選ぽくはあるが、ただ、この逸話に関わった将校たちが明確な軍規違反として処分される、という厳しい現実も描き込まれ、単純な美談だけに終わらせていない点は評価できる。

●『RENT』★★★
 (2005・米・2時間15分)

 監督:クリス・コロンバス
 出演:ラザリオ・ドーソン
    アダム・パスカル
 


 プッチーニの歌劇《ラ・ボエーム》を下敷きにしたミュージカルで、日本でも翻訳上演され、向こうの舞台の過去2回の来日公演もヒットしているから、ミュージカル・ファンには待望の映画化だろう。主要人物8人のうち、6人までがブロードウェイの舞台と同じキャスティングだ。ちなみに今年も11月に東京で来日公演がある。
 アメリカ人はかなり《ボエーム》が好きとみえ、シェリーの『月の輝く夜に』とか、評者の大好物『レナードの朝』などにもその一部がとても印象的に使われていたが、たしかに、貴族や王族のような特権階級がまったく登場せず、家賃(レント)が払えないくらい貧しくとも他人に縛られずに生きる庶民の群像劇というのは、自由を第一に標榜する国ではひときわ身近に感じるのだろう。
 人物名は、ミミはそのままミミで、他の名前もロドルフォがロジャーになったり、基本的に頭文字を同じにしているから、《ボエーム》の誰を下敷きにしているかはすぐに見当がつく。
 ただ、音楽的にこれはあくまでロック・ミュージカルなので、歌劇を連想するようなクラシカルな部分は殆ど無く、せいぜいギターで《ボエーム》のひとふしを弾いて聞かせ「パクリじゃないよ」とやる程度で、これには思わずニヤリとさせられるが、《ボエーム》を知らなければ何のことやら判らない楽屋落ちだ。
 だがクライマックスで、その《ボエーム》のひとふしが高々とオマージュのように奏でられると、このままオリジナルのオペラ同様の悲劇的結末を迎えるのか…、と思わされるが、その後にもうひと捻りあって、いかにもアメリカ的な大団円がやってくる。
 とにかく映画化としては充分に成功で、あとはこのミュージカルそのものへの好み次第、というところだろうか。

●『ぼくを葬(おく)る』★★★
 (2005・仏・1時間21分)

 監督・脚本:フランソワ・オゾン
 出演:メルヴィル・プポー
    ジャンヌ・モロー
    ジョン・エイモス


 オゾンの新作は、余命せいぜい3ヶ月と宣告されたファッション・カメラマンの絶望感を、正攻法でじっくりと描いて行く。
 撮影監督に女性を起用し、プポーくんやその恋人(男!)など、美形男優の魅力を引きだすのに注力している。
 ジャンヌ・モローが、なんとプポーのお婆さん役で出演。しかし、思ったほどには年齢を感じさせず、流石の貫禄で見せてくれる。
 海辺でのラストは、どこか『ヴェニスに死す』を連想させ、静謐で余韻の残るもの。

●アンダーワールド エヴォリューション ★★半
 (2006・米・1時間46分)

 監督:レン・ワイズマン
 出演:ケイト・ベッキンセール
    スコット・スピードマン


 吸血鬼族 versus 狼男族の戦いの終結編。
 決してマイナー作品ではないのだけど、超メジャーの大作に較べれば、いかにも予算はぎりぎりとみえ、CGなど、例えば『ナルニア国』のライオンなんぞの見事さに比すれば、どうにもグラフィックっぽい出来だが、かつてはこの程度のCGでも驚きの目を瞠(みは)ったんだから、馴れというのは恐ろしいもの。
 この続編において、最終的にヴァンパイア以上のものへの進化(エヴォリューション)があり、大団円を迎えるが、この終結感はなかなかヴォリューム豊かに充実してシリーズを締めくくっており、第一作を超えた、予期以上の好結果だった。

●ダ・ヴィンチ・コード ★★半
 (2006・米・2時間30分)

 監督:ロン・ハワード
 出演:トム・ハンクス
    オドレイ・トトゥ


 言わずと知れたダン・ブラウンのベスト・セラーの映画化で、カトリック国の一部では上映反対運動が起き、ヴァチカンが声明を出すなど、たしかにキリスト教徒には容認しがたい内容だろうが、娯楽映画として実に面白く、2時間半があっと言う間。
 諸々の謎解きについても、ロン・ハワードらしく噛んで含めるように解り易く説き明かしてくれるので、キリスト教や世界史に疎いむきも心配いらない。
 ただ、ちょっと解り易く説明し過ぎて、神秘的な深みとか余韻は無く、感心はしても感動するような映画ではない。
 なにしろ、ロン・ハワードの手にかかると、『ビューティフル・マインド』の統合失調症(旧称:精神分裂症)ですら、どこか健全味を帯びてしまったのだから…(笑)。
 映画では尺の関係もあってか、「最後の晩餐」については解明されても、「モナリザ」のほうは殆ど触れ終いだったので、やや物足りなさは残ったが、封切り日(5月20日)の夜にフジTVで映画の公開に合わせての特番があって、そっちでは「最後の晩餐」に加えて「モナリザ」についてもかなり詳細に解読されていたから、その特番でとてもよく解った。
 とにかく、ここにおいてダン・ブラウンの提示した、イエス・キリストを「神の子」の座から解放するかのような主題は実に面白いが、ただ、更に言えば、「共観福音書」と「ヨハネ」とではなぜ記述が違うのか、とか、「トマス福音書」の存在などにも触れてくれれば、いっそう興味深く、世界史的・文化史的レヴェルで考え込まされたのではなかろうか?








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