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 【2008年3月】
 ●ライラの冒険 黄金の羅針盤
 ●4ヶ月、3週と2日
 ●ジャンパー
 ●バンテージ・ポイント

●『ライラの冒険 黄金の羅針盤』★★半
 (2007/米/1時間52分)3月1日公開

監督:クリス・ワイツ
出演::ニコール・キッドマン
   ダコタ・ブルー・リチャーズ


 原作はフィリップ・プルマンの「黄金の羅針盤」(新潮社刊)で、小説ではこの後「神秘の短剣」というのが続いていて、全3部作である。
 映画の原題もただの『黄金の羅針盤(ゴールデン・コムパス)』だが、邦題は少女ライラを前面に出して『ライラの冒険』というのを先に付けている。
 製作が『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのニューライン・シネマだけに、相当な製作費をかけ、監督も決定までに一度降板してまた復帰したりして、かなり紆余曲折を経ているが、まずまず、それなりの成果を挙げ、面白いファンタジーには仕上がっている。
 基本設定は、この世界によく似ているけれども微妙に異なるパラレル・ワールド=並行世界であり、そこの住人たちは、それぞれの心が動物の姿で現われた「ダイモン」と呼ばれる守護精霊をもっていて、いつも行動を共にしている。
 このダイモンは、本体とは雌雄が逆になっているので、何か、ユング心理学で言う「アニマ」「アニムス」の元型を連想させる。(余談だが、本作の公式HPに自分のダイモンを調べられるコーナーがあり、やってみたら雌のトラだった)
 他にも「ダスト」という謎の粒子や、「教権」と呼ばれる支配者など、色々と分析したくなるようなアイテムも多い。
 クライマックスの合戦場面など今ひとつスケール感が欲しい、といった弱みもあるとは言え、今後の展開も合わせて楽しませてくれる。

●『4ヶ月、3週と2日 』★★★
(2007/ルーマニア/1時間53分)3月1日公開

 監督:クリスティアン・ムンジウ
 出演:アナマリア・マリンカ
    ローラ・ヴァシリウ


 去年(2007年)のカンヌのパルムドールだが、そうでなくても見応え充分の佳作。
 1987年、チャウシェスク政権末期のルーマニアで、禁止されている人工妊娠中絶をしなければならなくなった女子大学生と、それを手助けするルームメイトの話し。
 特に災難なのはそのルームメイトの女学生のほうで、手術当日になって予約した筈のホテルがとれていなかったり、迎えに行った堕胎医の男にネチネチ責められたり、急にボーイ・フレンドの両親に会わなければならなくなったりと、1日ぢゅうさんざん東奔西走した挙句、何とも卑劣漢の堕胎医に弱みに付け込まれて法外な金を要求され、遂には足りない分を身体で払わされてしまう…。
 タイトルの『4ヶ月、3週と2日 』は女子大生の妊娠期間であり、医療設備の無いホテルの1室のような所で中絶するには、もうかなり危険な時期であることが判る。
 直截なチャウシェスク批判は無いけれど、映画の語る現実自体がまさにそうなっていて、およそサーヴィス意識の欠如したホテルのフロントとか、日常物資の調達の多くが闇だったり、日用品をお互いに融通し合ったり、社会主義の独裁政権末期がいかに不便で停滞していたかがよく実感出来、これではやがて
民主化要求の巨大なうねりが起こるのも無理ないだろう、と思わせる。
『ヴェラ・ドレイク』にも通じる、中絶描写のリアルさが、迫真だった。

●『ジャンパー 』★★
 
(2007/米/1時間28分)3月7日公開

 監督:ダグ・リーマン
 出演:ヘイデン・クリステンセン
    ジェイミー・ベル


 瞬間移動=テレポーテーションというのは、念力とか透視とか予知とか透明人間とかと並ぶ、SFではお馴染みの超能力だが、意外にも映画ではあまり正面から描かれていず、最近では『X−MEN2』とか、古くは小松左京原作の『エスパイ』ぐらいだろうか。
 超能力ではなく機械装置を使うものでは、『スター・トレック』シリーズの「転送ビーム」とか『蝿男の恐怖』とそのリメイクの『ザ・フライ』シリーズ、それと同工の『電送人間』(東宝)などがあったが、こっちのほうは、いわば「究極のファックス」みたいな送受信の仕組みであり、自由にどこへでも行けるというものではなかった。
 目覚しいCGの性能向上で、生身だけの移動でもようやく面白く見せられるようになった、というところだろうか。
 本作『ジャンパー』では、川に転落して溺れそうになった少年が突然この能力に目覚め、気がついたら図書館に横たわっていた、という設定になっているのだが、その時、自分の身ひとつに加えて川の水まで一緒に移動して来て、床の上が水浸しになってしまっており、これが後々、例えば恋人を抱いたまま二人とも瞬間移動出来る、といった伏線として生きてくるわけだ。
 お話しは、もう一人ジャンパーの仲間が現れたり、それを抹殺しようとする組織が出現して両者が死闘を繰り広げたり、主人公の母親も実はジャンパーだったことが判ったりして、多くの謎を抱えたまま続編へ、というつくりで引っ張る。
 地上のどこでもほぼ無制限にテレポート可能というのは、イージーな夢想と言ってしまえばそれまでだが、原作は小説にもかかわらず、どこかアメリカン・コミックの映画化ふうに見えるのは、そこら辺の安易さから来るやむを得ない印象なのだろう。
 とにかく、娯楽映画としては充分に楽しめる。

●『バンテージ・ポイント』★★
 
(2008/米/1時間30分)3月7日公開

 監督:ピート・トラヴィス
 出演:デニス・クエイド
    マシュー・フォックス


 かつて『アルマゲドン』について、「2時間半の予告編」と喝破したのは柳下毅一郎だったが、その伝で行けば、アメリカ映画の予告編化ここに極まれり、といった様相の一作。
 場所はスペイン、サラマンカのマヨール広場。折りしも公衆の前で挨拶しようとしたアメリカ大統領に、暗殺者の銃弾が命中する。パニックに陥る群集と、走り回るSPたち。やがて、中央の演壇までが大爆発を起こす…。
 そんな状況を、異なった8人の目撃者の視点で繰り返し見せ、次第に真相を明らかにして行く、という趣向が、なかなかに面白い。
 ただ、ひとつの視点が終わるたびに、いちいちヴィデオを巻き戻すようにして最初の時刻に戻り、また始めから見せていく、というのは、あまりに解り安すぎる演出で、思わぬヤツが黒幕だったという定番の結末もろとも、殆ど考えることの必要ない世界であることもまた事実
である。








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